F.LL.Wright の住宅
第6回 JacobsⅡ 1946年 ~半円形ソーラーハウス~
前回紹介したユーソニアンハウスNo.1にJacobsさんは数年しか住みませんでした。家族が増えたことと高く売れたため、もう一度ライトに依頼したのです。
ライトが新たに提案したのはパッシブソーラーハウスでした。大きく湾曲した石積みの壁と同心円のガラス面に囲まれた扇型は室内に冬の日射を最大限取り入れるための形です。敷地は開けた平坦な場所でしたが、ライトは中庭を円形に1メートルほど掘り下げその土を北側の石積壁の周りに盛り上げました。土で覆うことによって年間を通じて安定した地下室の暖かさと涼しさを手に入れ外壁の仕上げを節約したのです。
北側外観。1階分の高さまで土が盛られている。
この家には玄関がありません。家に入るには、土塁に穿たれたトンネルを抜けて中庭に出ます。するといきなり視野が広がるのです。川端康成の長編小説『雪国』にある「トンネルを抜けるとそこは雪国であった。」の名文を思い起こさせる劇的なアプローチです。
JacobsⅡがあるマディソンは、短いですが蒸し暑い夏もあります。一階の北側には窓がとれないので、風通しは悪いのかなと思って住人に尋ねてみました。その答えは夏もとても快適とのこと。その仕掛けは、外部に張り出した石積みの壁がウインドキャッチャーとなり、両サイドに開けられた2層分のスリット窓から壁に沿った風を室内に造り出すのです。
平面図 断面図
室内はかなり広いのですが、湾曲しているため少しずつ見え方が変わりだだっ広い感じがしません。1階平面図に描かれたグランドピアノから家の大きさがわかりますね。
大きな暖炉は石積みと土塁にたっぷりと蓄熱し暖かさをキープします。
不思議なのは構造。2階を支える柱がありません。二階の床は屋根の垂木から細い鉄筋で吊られています。間仕切りは必要に応じてどこにでも自由に追加・撤去できるようになっています。
2階を歩くと吊り橋のように少し揺れます。
低予算だったため仕上げは粗いのですが、自然の豊かさが身近に感じられ、伸び伸びとした空間構成と家族や時代の変化に対応できる時代を先取りした、魅力的なパッシブソーラーハウスです。