F.LL.Wright の住宅

■第1回 F.LL.ライトの住宅を訪ねて廻る

 建築学科卒業後、私は遠藤楽先生の設計事務所に奉職しました。遠藤楽先生はF・LL・WRIGHT(フランク・ロイド・ライト、以下ライト)の愛弟子遠藤新さんの次男で、親子二代ライトの弟子です。先生の設計される住宅は、当時から床暖房と暖炉が標準装備でした。吹き抜けなどを介して空間がつながり伸びやかで、ライトの考えを踏襲した住み心地抜群の家でした。先生と一緒にライト設計の自由学園を訪れる機会もたびたびあり、ライトやタリアセンの話をよく聞かせていただいたものです。そして私も、いつかライトの住宅を体験したい、タリアセンに留学したいと強く思うようになったのです。


ライト夫妻。Taliesin East 食堂にて。(1957年 撮影=遠藤楽)

実現できたのは31歳のころでした。タリアセンは、ライトの家族、弟子たちとその家族、学生たち合計70人ほどが、共同生活を営む設計事務所であり建築学校です。

 ライトは、生涯400棟を越える住宅を完成させました。私が留学した当時は、まだインターネットもなく情報が少ない時代でしたが、現存するライトの建物の所在を調べ、手当たり次第に訪ねたわけです。ライトの住宅は、校外にあることが多く公共交通機関ではなかなかたどり着けません。中古バイクを手に入れ、ひたすら走り回りました。訪ねた家は100棟を超えます。事前連絡がつかないお宅も多く、玄関でピンポンとベルを押します。タリアセンの学生であることを告げると、突然の訪問でも室内まで見せていただけることもありました。


当時の私。バイクでアメリカ全土を走り回った。

 写真集や書籍でよく見かける有名なもの、あまり知られていない家、すべてで感じたことはライトの住宅に対する情熱です。常に何か新しいことにトライしようとしている姿勢がうかがわれるのです。ライトが生涯貫いたのは、“健全なアメリカの住宅をいかに造るか”というチャレンジ精神です。
 2017年はライト誕生150年でした。築100年を超す住宅も数多く現存しています。ライトが生まれたころは、馬車の時代でした。生活様式は相当変化しましたが、未だに愛され住み次がれています。その魅力を知ることは、私たちが携わる現代日本の住宅にも大切なキーポイントを教えてくれることになると思います。

※ライトは、サインするときに地震で「LL」と書いていた。この連載では、「F・LL・ライト」と表記する。

  『住まいマガジン びお』にて連載中。