F.LL.Wright の住宅

第8回 Fowllingwater / 落水荘 1935年 ~岩上の名作~


ライトの落水荘は、世界で最も訪問者の多い住宅の一つでしょう。私が落水荘を訪れたのは1982年。坂を下りながら初めて見た姿にエエー!とびっくり。右側の翼のような庇が折れている! 覆い被さるように張り出していた木の枝が暴風雨で折れて直撃したのだそうです。
実は落水荘は何度か鉄砲水の被害にも遭っています。建設前に岩の上に建設するのは危険だと指摘されていたこともあったようです。あまりにも大きな跳ね出し構造に不安を抱いた施主カウフマンが、セカンドオピニオンを求め、施工者がライトの許可を得ず鉄筋量を増やしてコンクリートを打設してしまい、ライトと決裂寸前まで険悪な状態にもなったこともありました。


左写真:有名なアングルですが翼が垂れ下がって台無しに。右上の枝には折れた裂け目がわかる。
右写真:建設以前の滝。カウフマン一家はここでよく水遊びをしたという。


美しい自然の中に建物ができると環境が犯された感じが湧くのが普通ですが、落水荘は別格です。“この建物が出来たおかげで滝の景色が引き立っている”と感じてしまうのは私だけではないでしょう。

 
被害を受けた庇


直撃した枝は片付けられていましたが、コンクリートの破片はそのまま。配筋の状態がよくわかります。これだけでよく持っていたなと思わせる鉄筋量です。赤いスチール製のサッシュやガラスは被害を受けていませんでした。正面の二つの穴は埋め込みの照明です。


リビングルーム


写真の右側の床にはりだしている岩は元々この場所にあった岩棚です。落水荘が建設される以前、施主のカウフマン一家は、滝で水遊びをした後この岩の上で日光浴をしたそうです。このポイントが建物の配置と高さの基準となりました。赤い球は暖炉にかざすヤカン。右に回転させると火床の上に移動できます。ほとんど使われなかったそうですが。


息子エドガーの寝室                  息子エドガーの寝室を外から望む


窓ガラスが石積の壁にそのまま突き刺さるディテール。豊かな大自然の中で過ごす気持ちよさと風雨から保護されている安心感が共存するなんとも言えない至福の空間感覚。タリアセンの学生だったエドガーが父に設計をライトに依頼するよう勧めたのだそうです。

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  『住まいマガジン びお』にて連載中。